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Return of the Obra Dinn ~ゲーム性とストーリー性を両立させた稀有な推理アドベンチャー~

 

※本記事にネタバレはありません

 

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タイトル画面だけで惹かれる人も多いだろう

概要

Return of the Obra Dinnはルーカス・ホープ氏が開発したインディーズの推理アドベンチャーゲーム。筆者は氏のゲームを未プレイだったが、調査した限りでは目の付け所に定評があり、評判の良い開発者であるよう。

 

本作で最初に目に入る特徴は間違いなくグラフィックだ。古い時代のコンピューターゲームをリスペクトした画面は白と黒のみで表現されおり、昨今のゲームを遊びながらもレトロゲームをプレイしているかのような雰囲気を堪能する事ができる。

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特徴的なグラフィック、描写は細かくストレスはない

 

また、本作は目的もゲームシステムも非常にシンプルで余計な要素がなく、その点でもレトロゲームリスペクトな部分があると感じた。

 

目的:4年前に失踪したObra Dinn号の乗員乗客60人すべての顔と名前を一致させてその安否や死因を確定し、手記を完成させる。手記には乗員乗客のスケッチや船内図などが予め載っている。

手法:死体にかざすことで死の瞬間を見ることができる「メメントモーテム」を使い、安否を推測する。

 

極端にまとめるとこれだけ。小難しい要素は一切ないので、以下のPVを観るだけでも大体の雰囲気は把握することができるだろう。

 

www.youtube.com

白黒のみだが描写はしっかり。「現代のレトロゲーム」といったところか。

 

先に言ってしまうが、本作は「雰囲気だけで中身スカスカ」という最近のインディーズゲームにそこそこ多いような作品とは全くの正反対、ぎっしり満足、超硬派な推理アドベンチャーである。今回はそんなReturn of the Obra Dinnの感想を書いていきたい。購入の参考として頂きたい。

 

 

評価

評価:★★★★★ 面白いのみならず、システム面で他作品を凌駕した神作

ゲームシステム的に優れた特徴を有する神ゲー。超々オススメ作品。推理アドベンチャーでは大変珍しく、プレイヤーの主体性にほぼ完全に依存するようデザインされており「自ら捜査し推理している」感覚をこれでもかと堪能することができる。

また世界観の構築もレベルが高く、特徴的な白黒グラフィックやBGMによって19世紀初頭の雰囲気が引き立てられている。ストーリーは壮大ではないが奥深さがあり、情報の小出しが巧みであることも相まって非常に高い品質を確保できている。考察の余地がしっかりあり、群像劇なのに加え後述するゲームシステムのおかげで登場人物に対する思い入れを抱きやすい。

  

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本作は決して雰囲気だけではない。中身ぎっしり満足Obra Dinnなのだ。

 

Return of the Obra Dinnのここが凄い

要約

文章が無駄に長いので本項の内容を要約する。

元来アドベンチャーゲームストーリー性とゲーム性の両立という非常に困難な課題を抱えてきた。しかし本作では「Obra Dinn号のストーリー」というメインシナリオを過去のものとし、情報の海にプレイヤーを叩き込むことで「手記を完成させようとする保険捜査官の話」を完全にプレイヤー主体のものとして成立させている。この2つの特徴により、本作は同ジャンルにおいて上記の課題を完全に克服した類い稀なる作品となっている。そこが凄い。

 

アドベンチャーゲームの抱える課題

本作の素晴らしさを語る上で欠かせないのが、アドベンチャーゲーム全般が抱えるジレンマだ。

 

映画の視聴者と異なり、ゲームのプレイヤーは物語にちょっとだけ干渉する事ができる。自身で体験している感覚をより強く味わうことができると言ったほうが分かりやすいか。そしてこれは「調査→ストーリー進行→調査」というサイクルを繰り返すアドベンチャーゲームにおいて特に顕著となる。即ち、アドベンチャーゲームは、他ジャンルと比較しても重厚なストーリーと特に相性が良い。

 

その一方で、本ジャンルではゲームプレイの幅が狭く、用意された路線の上を進まざるを得ない状況が多発する。物語を楽しむという点において右に出る分野はないが、ゲームを遊んでいるというよりは映画や小説のおまけにゲームプレイが付随しているような状態となる(最も極端な例としてはサウンドノベルが分かりやすい)。そして皮肉なことに、ストーリーのクオリティを高めるほどこの傾向は強くなってしまう。緻密に練られた物語を辿る上で、プレイヤーの自由な選択・行動はそれを阻害する要因となってしまうからだ。

 

上記の課題を解決する手法として、ムービー中にQTE*1を導入することでゲームとしての一応の体裁を保つような措置を行っていたり、ストーリー性を度外視して広大なフィールドを探索できるようにしたりと、様々な努力が行われている。しかし実際にはQTEは選択肢を選ぶのと変わりなく、自由度の高すぎるゲームは上っ面だけ整えて中身スカスカの「雰囲気ゲー」になりがちだ。つまり残念なことに、多少の工夫で誤魔化そうとしても根本は変わらないのである。

*1:クイックタイマーイベントの略。ムービー中に指定された簡単な操作でストーリー分枝が起きたりする仕様。
ムービーゲーに多く採用されており、個人的には存在価値がないと思っているゲームシステム。

 

ただこれはアドベンチャーというジャンルである以上仕方のないことで、例え選択肢やルートを増やしたとしても本質的には解決できない。故にアドベンチャーゲームの評価において、「自由度が低いからつまらない」というのは公平ではない。私自身も、前記事(神宮寺三郎)で「本作は推理アドベンチャーであり、基本的には文章を読んでストーリーを楽しむもの」と述べている。

 

近年では上に挙げたような特徴を有する作品が評価されることもしばしばある。しかし、筆者はゲームをゲームたらしめているものはムービーでも見た目の雰囲気でもなく、あくまでゲームプレイが最重要だと考えている。いくらアドベンチャーといっても、やはり自分主体で、だけど良好なストーリーを楽しみたいというわがままな欲求を抱いてしまうのだ。そしてReturn of the Obra Dinnは、2つの特徴によって見事にこの欲求を満たしてくれた。

 

特徴1. ストーリーが2つある

まず重要なのが、Return of the Obra Dinnにはストーリーが2つ存在するという点だ。

 

第一に、メメントモーテムを使用して覗き見る「Obra Dinn号のストーリー」。これは過去の出来事であり、主人公がどのような行動をしたところで変える事ができない。しかし60人もの登場人物が様々な事件に遭遇するこちらは、誰が見ても明らかな本作のメインシナリオだろう。情報量も多く、考察の余地は十分にある。これだけでも相当なクオリティを有している。一本の映画の中を自由に歩き回れるような感覚というのが最も近いかもしれない。

 

そしてもう一つ忘れてはならないのが「手記の完成を目指す主人公(プレイヤー)のストーリー」だ。こちらは上と対照的に、登場人物はほとんど存在せず、用意された路線も存在しないといっていい。プレイヤー自身がどのように、どのような手順で乗員乗客を特定していくのかは完全に自由なのである。しかし後述するが、このストーリーを進めるのは決して容易ではない。そこにしっかりとした苦労があるからこそ、プレイヤーの体験・記憶がそのまま本作におけるもう一つの物語となるのだ。

 

このように本作には2つのストーリーが存在しており、一つはゲームに用意されたもの、もう一つはゲームから提供される情報を元に、プレイヤー自身が作り上げていくものとなっている。そしてそれらの二つは互いに干渉していない。プレイヤーは手記の完成を成し遂げる「過程」として「Obra Dinn号のストーリー」を知る必要があるのであり、決してその顛末を知ることが目的ではないからだ。これにより、ゲームとしてのメインシナリオを確立させつつ、プレイヤー自身の行動を物語として成立させることに成功している。

 

ただ、「過去に起きた事件をプレイヤーが調査する」だけであれば決して珍しくないと思う人もいるだろう。それに、事件の調査過程が用意された路線の上に存在するのであれば、結局は「手記の完成を目指す主人公のストーリーを見るゲーム」に落ち着いてしまう。しかし本作は、非常に精巧に練られたゲームデザイン(調査難易度及び自由度)によって、それを見事に回避している。

 

特徴2. プレイヤーの主体性に完全に依存した調査システム

説明が難しいのだが、上項で述べた「Obra Dinn号のストーリー(過去にObra Dinn号で何が起きたのか)」を知るのにそう時間はかからない。ゲーム開始後少し探索するだけで、ほとんどすべての死の瞬間を苦労なく見ることができるだろう。しかし言い方を変えると、本作はプレイヤーに対し「調査に必要であろう情報」を全て一気に渡してくるのである。死の瞬間を順番に見ていけば自動的に手記の安否情報が埋まっていく、情報処理の前にヒントをくれるなどという親切丁寧な仕様は本作には一切存在しない。ゲーム開始早々情報の海に叩き込み、後はすべてプレイヤー自身の探索、推理、判断に委ねてくるのだ。

 

そしてこの調査難易度がなんとも巧くできている。最初は路頭に迷うかもしれないが、自分がヒントだと思ったものを丁寧に一つずつ紐解いていくことで、処理しなければならない情報が減少し、調査が進んでいくようにデザインされているのだ。また、正しい安否情報を3人確定させる毎に特別な演出が入るため、自身の推理の正誤を確認することも出来るし、なんならそのシステムを悪用してちょっとだけゴリ押しすることも可能だったりする。ただ一つ確かに言えることは、ほとんど全ての死の瞬間を何度も見直すことになるだろう。しかしこれは言うなれば、情報の海という広大なフィールドをプレイヤーが自由に探索できるという事である。そしてその苦労・成功の体験が、そのままもう一つのシナリオとなるのだ。即ち、プレイヤーの主体的な捜査がそのままストーリーとして成立しているのである。これはアドベンチャーゲームとしては本当に珍しい事だ。

 

良い点(上記に加えて)

 ・土台のしっかりした世界観

本作は大体1800年頃が舞台だが、重厚な雰囲気のBGM、登場人物の服装、行動等、かなりしっかりと世界観が形成されている。そして何より、特徴的なグラフィックの醸し出す古臭さが時代背景とマッチしている。白黒グラフィックといっても書き込みは非常に丁寧で、私の場合はプレイしていて目が疲れたりはしなかった。人によっては疲れる人もいるようだが。

 

また、良質なストーリーを有するゲームは情報の小出しが上手いものだ。Obra Dinn号のストーリーは非常に精巧に描かれており、考察の余地がかなりたくさんある。しかしおそらく多くのプレイヤーは初見時では、その描写の細かさに気付く事ができないだろう。本作は群像劇なので、死因の特定をする過程で様々な人に着目する必要がある。その際に、当該人物達の色々な面(ヒントになるのであえて曖昧な表現を使用する)が分かってくることで、一見ただの静止画にしか見えないシーンに沢山の感情が交錯していることが分かり、どんどん物語に深みが生まれてくる。これも非常によくできたシステムだと感じた。

 

ストレスを減らす工夫が多い

60人の乗員乗客全てを特定するとなると、情報の整理は必ずしなければならないが、本作のメニュー画面(手記)では特定の人物をブックマークしたり(その人が登場するシーンを自動的に抽出してくれるシステム)、死体を見ながら手帳を開くと自動的にその人のスケッチを開いてくれたりと、便利な機能がしっかりと搭載されている。メモを使う人もいるかもしれないが、私の場合はそのような事は一切せずにクリアすることができた。意外と重要な要素だ。

 

・キャラクターに思い入れを抱ける

「Obra Dinn号のストーリー」を知るのにそう時間はかからないとは言ったが、それは大まかな話に限定した場合だ。上でも書いたが、一見すると誰かが死んでいるだけにしか見えないシーンでも、他の乗員乗客各個人がどのように振舞っているか、どのような人物かが判明していくにつれてそのシーンの中に多くの物語が存在する事に気付けるようになる。本作は群像劇なので登場人物の性格も様々。英雄的な人物もいれば、悪人だってもちろんいる。色々な人が登場するからこそ、大体の人は思い入れを抱けるキャラクターがいるだろう。もしかしたらそれは捜査に苦労したキャラクターかもしれない。一つ言えるのは、本作の登場人物はただ手記に当てはめていくだけのパズルピースではないという事だ。推理が進んだらヒントがなさそうなシーンを見返してみると良い。きっと新たな、物語性のある発見があることだろう。

 

 

 ・推理ゲーにしてはやりごたえが半端ない

上でも書いたがもう一度。本作は推理ゲーだが、情報をプレイヤーに丸投げし、後はプレイヤーに全てを委ねてくる。本当に推理しなければクリアできないシステムとなっている。故に人物を当てられた時の楽しさが半端なく、次へ次へと没入していってしまう。情報の出し方も、分かりやすいものもあれば、クリアするまで全く気付かないものまで様々で、フィールドは狭いが情報密度が高いため探索し甲斐がある。

この記事で唯一のヒントを書くと、本作では与えられる全てがヒントだと思った方がいい。しっかり観察して、しっかり考えて推理する必要がある。一度進め方が分かってくれば、至上のやりがいを味わう事ができるだろう。

 

悪い点(正直全て人によるレベル)

・極一部の死に方やヒントが純粋に分かりにくい

白黒グラフィック唯一の弊害。個人的には2人ほどだが、グラフィックのせいでかなり分かりにくい死因が存在する。他にも人の顔は少々見づらかったりもするが、おそらくこの「ちょっと分かりにくい」に関しては意図的なものだろう。また、身体的特徴がヒントだが、それが致命的に分かりにくい人物も存在する。ただ、分かりにくいだけで難しくはなかったため、自分の工夫で何とかしてみよう。一応言うと、本作は大量のヒントで溢れており、全てを使わなくとも十分に推理できる状況は多い。

  

 

・少しだけファンタジーな要素がある

プレイしてすぐわかるので書いてしまうが、本作は完全現実主義の世界観というわけではない。しかし残念ながらその謎が全て明かされるような事はなく、プレイヤー自身の考察に委ねられる部分もある。考察できるだけの情報はあるのでそれで満足できる人なら問題ないが、全てをはっきりさせて欲しいというタイプの人は不満に思うかもしれない。筆者としては、1800年頃の話なので情報的にもまあこんなもんだろうと、この点に関してはむしろ気に入っている。

イメージとしてはソウルシリーズのストーリーをもう少し分かりやすくした程度。SEKIRO位と言えばわかる人にはわかるだろうか。

 

 

・推理の難易度は高め

目にタコができるくらい何度も熱く語っているが、本作の卓越した面白さはこの絶妙な捜査難易度に支えられている。逆に言えば、捜査を全く進められない場合には面白さを感じることはできないだろう。難易度としては最初高いと感じたが、ある程度情報を整理してからは比較的スムーズに捜査が進み、11時間ほどでクリアできた。筆者は推理モノに慣れていないので、11時間で60人特定できたと考えると物凄く難しいという事はないだろう。もし行き詰った場合は、とにかく情報を活用しよう

本当に良い作品というものは、どんな人にでもクリアできるイージーさでは成立しないものだ。

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11時間ピッタリでクリア。人によってかなり変わりそう。

 

総評

Return of the Obra Dinnは深いストーリー性とゲーム性の両立に成功した、非常に珍しい推理アドベンチャーである。メインストーリーは短いものの、捜査の進行によってどんどん肉付きが良くなっていき、終盤では十分楽しめる内容となる。

本作は序盤からプレイヤーに対し、情報を与えるだけ与えてあとは自由に捜査しろという、真正面からストレートを入れてくるような直球のデザインとなっている。そのためとにかくやりがいがあり、アドベンチャーにありがちな映画や小説にゲームが付随しているような作品を凌駕している。かなり歯応えがあり、あと60人くらい追加してほしいとさえ思う。

 

推理アドベンチャーの完成型の一つとすべき神作

 

ここまでやりごたえのあるアドベンチャーも珍しく、記憶を消してもう一度遊びたいと心から思える神ゲーであった。超々オススメ作品。PVを見て気になった人は買って後悔しないと思う。

 

 オススメできる人

・ゲーマー全般(一度は体験すべきと思えるだけの品質)

・ゲームにやりごたえを求める

・群像劇が好き

・PVを見て面白そうと思った

 

オススメできない人

・そもそもアドベンチャーゲームが嫌い

 

余談

星評価は偉そうだし開発者に失礼なのでやりたくなかったのですが、指標があった方が分かりやすい事は間違いないので結局★を付けることにしました。

そして私の中での★5は、「ただ面白いだけではなくシステム的に他を圧倒している作品」という定義があります。同ジャンルのゲーム全般に影響を与え得ると感じた作品であり、要はどれだけ面白くてもそう簡単には出さない評価です(少なくとも本作をプレイする前は1作品しかなかった)。まさかブログ初めて4記事目で出すことになるとは。幸福を体験できたことに感謝します。