Return of the Obra Dinn ~ゲーム性とストーリー性を両立させた稀有な推理アドベンチャー~
※本記事にネタバレはありません
概要
Return of the Obra Dinnはルーカス・ホープ氏が開発したインディーズの推理アドベンチャーゲーム。筆者は氏のゲームを未プレイだったが、調査した限りでは目の付け所に定評があり、評判の良い開発者であるよう。
本作で最初に目に入る特徴は間違いなくグラフィックだ。古い時代のコンピューターゲームをリスペクトした画面は白と黒のみで表現されおり、昨今のゲームを遊びながらもレトロゲームをプレイしているかのような雰囲気を堪能する事ができる。
また、本作は目的もゲームシステムも非常にシンプルで余計な要素がなく、その点でもレトロゲームリスペクトな部分があると感じた。
目的:4年前に失踪したObra Dinn号の乗員乗客60人すべての顔と名前を一致させてその安否や死因を確定し、手記を完成させる。手記には乗員乗客のスケッチや船内図などが予め載っている。
手法:死体にかざすことで死の瞬間を見ることができる「メメントモーテム」を使い、安否を推測する。
極端にまとめるとこれだけ。小難しい要素は一切ないので、以下のPVを観るだけでも大体の雰囲気は把握することができるだろう。
白黒のみだが描写はしっかり。「現代のレトロゲーム」といったところか。
先に言ってしまうが、本作は「雰囲気だけで中身スカスカ」という最近のインディーズゲームにそこそこ多いような作品とは全くの正反対、ぎっしり満足、超硬派な推理アドベンチャーである。今回はそんなReturn of the Obra Dinnの感想を書いていきたい。購入の参考として頂きたい。
評価
評価:★★★★★ 面白いのみならず、システム面で他作品を凌駕した神作
ゲームシステム的に優れた特徴を有する神ゲー。超々オススメ作品。推理アドベンチャーでは大変珍しく、プレイヤーの主体性にほぼ完全に依存するようデザインされており「自ら捜査し推理している」感覚をこれでもかと堪能することができる。
また世界観の構築もレベルが高く、特徴的な白黒グラフィックやBGMによって19世紀初頭の雰囲気が引き立てられている。ストーリーは壮大ではないが奥深さがあり、情報の小出しが巧みであることも相まって非常に高い品質を確保できている。考察の余地がしっかりあり、群像劇なのに加え後述するゲームシステムのおかげで登場人物に対する思い入れを抱きやすい。
Return of the Obra Dinnのここが凄い
要約
文章が無駄に長いので本項の内容を要約する。
元来アドベンチャーゲームはストーリー性とゲーム性の両立という非常に困難な課題を抱えてきた。しかし本作では「Obra Dinn号のストーリー」というメインシナリオを過去のものとし、情報の海にプレイヤーを叩き込むことで「手記を完成させようとする保険捜査官の話」を完全にプレイヤー主体のものとして成立させている。この2つの特徴により、本作は同ジャンルにおいて上記の課題を完全に克服した類い稀なる作品となっている。そこが凄い。
アドベンチャーゲームの抱える課題
本作の素晴らしさを語る上で欠かせないのが、アドベンチャーゲーム全般が抱えるジレンマだ。
映画の視聴者と異なり、ゲームのプレイヤーは物語にちょっとだけ干渉する事ができる。自身で体験している感覚をより強く味わうことができると言ったほうが分かりやすいか。そしてこれは「調査→ストーリー進行→調査」というサイクルを繰り返すアドベンチャーゲームにおいて特に顕著となる。即ち、アドベンチャーゲームは、他ジャンルと比較しても重厚なストーリーと特に相性が良い。
その一方で、本ジャンルではゲームプレイの幅が狭く、用意された路線の上を進まざるを得ない状況が多発する。物語を楽しむという点において右に出る分野はないが、ゲームを遊んでいるというよりは映画や小説のおまけにゲームプレイが付随しているような状態となる(最も極端な例としてはサウンドノベルが分かりやすい)。そして皮肉なことに、ストーリーのクオリティを高めるほどこの傾向は強くなってしまう。緻密に練られた物語を辿る上で、プレイヤーの自由な選択・行動はそれを阻害する要因となってしまうからだ。
上記の課題を解決する手法として、ムービー中にQTE*1を導入することでゲームとしての一応の体裁を保つような措置を行っていたり、ストーリー性を度外視して広大なフィールドを探索できるようにしたりと、様々な努力が行われている。しかし実際にはQTEは選択肢を選ぶのと変わりなく、自由度の高すぎるゲームは上っ面だけ整えて中身スカスカの「雰囲気ゲー」になりがちだ。つまり残念なことに、多少の工夫で誤魔化そうとしても根本は変わらないのである。
*1:クイックタイマーイベントの略。ムービー中に指定された簡単な操作でストーリー分枝が起きたりする仕様。
ムービーゲーに多く採用されており、個人的には存在価値がないと思っているゲームシステム。
ただこれはアドベンチャーというジャンルである以上仕方のないことで、例え選択肢やルートを増やしたとしても本質的には解決できない。故にアドベンチャーゲームの評価において、「自由度が低いからつまらない」というのは公平ではない。私自身も、前記事(神宮寺三郎)で「本作は推理アドベンチャーであり、基本的には文章を読んでストーリーを楽しむもの」と述べている。
近年では上に挙げたような特徴を有する作品が評価されることもしばしばある。しかし、筆者はゲームをゲームたらしめているものはムービーでも見た目の雰囲気でもなく、あくまでゲームプレイが最重要だと考えている。いくらアドベンチャーといっても、やはり自分主体で、だけど良好なストーリーを楽しみたいというわがままな欲求を抱いてしまうのだ。そしてReturn of the Obra Dinnは、2つの特徴によって見事にこの欲求を満たしてくれた。
特徴1. ストーリーが2つある
まず重要なのが、Return of the Obra Dinnにはストーリーが2つ存在するという点だ。
第一に、メメントモーテムを使用して覗き見る「Obra Dinn号のストーリー」。これは過去の出来事であり、主人公がどのような行動をしたところで変える事ができない。しかし60人もの登場人物が様々な事件に遭遇するこちらは、誰が見ても明らかな本作のメインシナリオだろう。情報量も多く、考察の余地は十分にある。これだけでも相当なクオリティを有している。一本の映画の中を自由に歩き回れるような感覚というのが最も近いかもしれない。
そしてもう一つ忘れてはならないのが「手記の完成を目指す主人公(プレイヤー)のストーリー」だ。こちらは上と対照的に、登場人物はほとんど存在せず、用意された路線も存在しないといっていい。プレイヤー自身がどのように、どのような手順で乗員乗客を特定していくのかは完全に自由なのである。しかし後述するが、このストーリーを進めるのは決して容易ではない。そこにしっかりとした苦労があるからこそ、プレイヤーの体験・記憶がそのまま本作におけるもう一つの物語となるのだ。
このように本作には2つのストーリーが存在しており、一つはゲームに用意されたもの、もう一つはゲームから提供される情報を元に、プレイヤー自身が作り上げていくものとなっている。そしてそれらの二つは互いに干渉していない。プレイヤーは手記の完成を成し遂げる「過程」として「Obra Dinn号のストーリー」を知る必要があるのであり、決してその顛末を知ることが目的ではないからだ。これにより、ゲームとしてのメインシナリオを確立させつつ、プレイヤー自身の行動を物語として成立させることに成功している。
ただ、「過去に起きた事件をプレイヤーが調査する」だけであれば決して珍しくないと思う人もいるだろう。それに、事件の調査過程が用意された路線の上に存在するのであれば、結局は「手記の完成を目指す主人公のストーリーを見るゲーム」に落ち着いてしまう。しかし本作は、非常に精巧に練られたゲームデザイン(調査難易度及び自由度)によって、それを見事に回避している。
特徴2. プレイヤーの主体性に完全に依存した調査システム
説明が難しいのだが、上項で述べた「Obra Dinn号のストーリー(過去にObra Dinn号で何が起きたのか)」を知るのにそう時間はかからない。ゲーム開始後少し探索するだけで、ほとんどすべての死の瞬間を苦労なく見ることができるだろう。しかし言い方を変えると、本作はプレイヤーに対し「調査に必要であろう情報」を全て一気に渡してくるのである。死の瞬間を順番に見ていけば自動的に手記の安否情報が埋まっていく、情報処理の前にヒントをくれるなどという親切丁寧な仕様は本作には一切存在しない。ゲーム開始早々情報の海に叩き込み、後はすべてプレイヤー自身の探索、推理、判断に委ねてくるのだ。
そしてこの調査難易度がなんとも巧くできている。最初は路頭に迷うかもしれないが、自分がヒントだと思ったものを丁寧に一つずつ紐解いていくことで、処理しなければならない情報が減少し、調査が進んでいくようにデザインされているのだ。また、正しい安否情報を3人確定させる毎に特別な演出が入るため、自身の推理の正誤を確認することも出来るし、なんならそのシステムを悪用してちょっとだけゴリ押しすることも可能だったりする。ただ一つ確かに言えることは、ほとんど全ての死の瞬間を何度も見直すことになるだろう。しかしこれは言うなれば、情報の海という広大なフィールドをプレイヤーが自由に探索できるという事である。そしてその苦労・成功の体験が、そのままもう一つのシナリオとなるのだ。即ち、プレイヤーの主体的な捜査がそのままストーリーとして成立しているのである。これはアドベンチャーゲームとしては本当に珍しい事だ。
良い点(上記に加えて)
・土台のしっかりした世界観
本作は大体1800年頃が舞台だが、重厚な雰囲気のBGM、登場人物の服装、行動等、かなりしっかりと世界観が形成されている。そして何より、特徴的なグラフィックの醸し出す古臭さが時代背景とマッチしている。白黒グラフィックといっても書き込みは非常に丁寧で、私の場合はプレイしていて目が疲れたりはしなかった。人によっては疲れる人もいるようだが。
また、良質なストーリーを有するゲームは情報の小出しが上手いものだ。Obra Dinn号のストーリーは非常に精巧に描かれており、考察の余地がかなりたくさんある。しかしおそらく多くのプレイヤーは初見時では、その描写の細かさに気付く事ができないだろう。本作は群像劇なので、死因の特定をする過程で様々な人に着目する必要がある。その際に、当該人物達の色々な面(ヒントになるのであえて曖昧な表現を使用する)が分かってくることで、一見ただの静止画にしか見えないシーンに沢山の感情が交錯していることが分かり、どんどん物語に深みが生まれてくる。これも非常によくできたシステムだと感じた。
・ストレスを減らす工夫が多い
60人の乗員乗客全てを特定するとなると、情報の整理は必ずしなければならないが、本作のメニュー画面(手記)では特定の人物をブックマークしたり(その人が登場するシーンを自動的に抽出してくれるシステム)、死体を見ながら手帳を開くと自動的にその人のスケッチを開いてくれたりと、便利な機能がしっかりと搭載されている。メモを使う人もいるかもしれないが、私の場合はそのような事は一切せずにクリアすることができた。意外と重要な要素だ。
・キャラクターに思い入れを抱ける
「Obra Dinn号のストーリー」を知るのにそう時間はかからないとは言ったが、それは大まかな話に限定した場合だ。上でも書いたが、一見すると誰かが死んでいるだけにしか見えないシーンでも、他の乗員乗客各個人がどのように振舞っているか、どのような人物かが判明していくにつれてそのシーンの中に多くの物語が存在する事に気付けるようになる。本作は群像劇なので登場人物の性格も様々。英雄的な人物もいれば、悪人だってもちろんいる。色々な人が登場するからこそ、大体の人は思い入れを抱けるキャラクターがいるだろう。もしかしたらそれは捜査に苦労したキャラクターかもしれない。一つ言えるのは、本作の登場人物はただ手記に当てはめていくだけのパズルピースではないという事だ。推理が進んだらヒントがなさそうなシーンを見返してみると良い。きっと新たな、物語性のある発見があることだろう。
・推理ゲーにしてはやりごたえが半端ない
上でも書いたがもう一度。本作は推理ゲーだが、情報をプレイヤーに丸投げし、後はプレイヤーに全てを委ねてくる。本当に推理しなければクリアできないシステムとなっている。故に人物を当てられた時の楽しさが半端なく、次へ次へと没入していってしまう。情報の出し方も、分かりやすいものもあれば、クリアするまで全く気付かないものまで様々で、フィールドは狭いが情報密度が高いため探索し甲斐がある。
この記事で唯一のヒントを書くと、本作では与えられる全てがヒントだと思った方がいい。しっかり観察して、しっかり考えて推理する必要がある。一度進め方が分かってくれば、至上のやりがいを味わう事ができるだろう。
悪い点(正直全て人によるレベル)
・極一部の死に方やヒントが純粋に分かりにくい
白黒グラフィック唯一の弊害。個人的には2人ほどだが、グラフィックのせいでかなり分かりにくい死因が存在する。他にも人の顔は少々見づらかったりもするが、おそらくこの「ちょっと分かりにくい」に関しては意図的なものだろう。また、身体的特徴がヒントだが、それが致命的に分かりにくい人物も存在する。ただ、分かりにくいだけで難しくはなかったため、自分の工夫で何とかしてみよう。一応言うと、本作は大量のヒントで溢れており、全てを使わなくとも十分に推理できる状況は多い。
・少しだけファンタジーな要素がある
プレイしてすぐわかるので書いてしまうが、本作は完全現実主義の世界観というわけではない。しかし残念ながらその謎が全て明かされるような事はなく、プレイヤー自身の考察に委ねられる部分もある。考察できるだけの情報はあるのでそれで満足できる人なら問題ないが、全てをはっきりさせて欲しいというタイプの人は不満に思うかもしれない。筆者としては、1800年頃の話なので情報的にもまあこんなもんだろうと、この点に関してはむしろ気に入っている。
イメージとしてはソウルシリーズのストーリーをもう少し分かりやすくした程度。SEKIRO位と言えばわかる人にはわかるだろうか。
・推理の難易度は高め
目にタコができるくらい何度も熱く語っているが、本作の卓越した面白さはこの絶妙な捜査難易度に支えられている。逆に言えば、捜査を全く進められない場合には面白さを感じることはできないだろう。難易度としては最初高いと感じたが、ある程度情報を整理してからは比較的スムーズに捜査が進み、11時間ほどでクリアできた。筆者は推理モノに慣れていないので、11時間で60人特定できたと考えると物凄く難しいという事はないだろう。もし行き詰った場合は、とにかく情報を活用しよう。
本当に良い作品というものは、どんな人にでもクリアできるイージーさでは成立しないものだ。
総評
Return of the Obra Dinnは深いストーリー性とゲーム性の両立に成功した、非常に珍しい推理アドベンチャーである。メインストーリーは短いものの、捜査の進行によってどんどん肉付きが良くなっていき、終盤では十分楽しめる内容となる。
本作は序盤からプレイヤーに対し、情報を与えるだけ与えてあとは自由に捜査しろという、真正面からストレートを入れてくるような直球のデザインとなっている。そのためとにかくやりがいがあり、アドベンチャーにありがちな映画や小説にゲームが付随しているような作品を凌駕している。かなり歯応えがあり、あと60人くらい追加してほしいとさえ思う。
推理アドベンチャーの完成型の一つとすべき神作
ここまでやりごたえのあるアドベンチャーも珍しく、記憶を消してもう一度遊びたいと心から思える神ゲーであった。超々オススメ作品。PVを見て気になった人は買って後悔しないと思う。
オススメできる人
・ゲーマー全般(一度は体験すべきと思えるだけの品質)
・ゲームにやりごたえを求める
・群像劇が好き
・PVを見て面白そうと思った
オススメできない人
・そもそもアドベンチャーゲームが嫌い
余談
星評価は偉そうだし開発者に失礼なのでやりたくなかったのですが、指標があった方が分かりやすい事は間違いないので結局★を付けることにしました。
そして私の中での★5は、「ただ面白いだけではなくシステム的に他を圧倒している作品」という定義があります。同ジャンルのゲーム全般に影響を与え得ると感じた作品であり、要はどれだけ面白くてもそう簡単には出さない評価です(少なくとも本作をプレイする前は1作品しかなかった)。まさかブログ初めて4記事目で出すことになるとは。幸福を体験できたことに感謝します。
探偵 神宮寺三郎 THE GHOST OF THE DUSK ~原点回帰に成功したハードボイルド推理アドベンチャー~
※本記事にネタバレはありません
概要
3DS専用ソフト、探偵 神宮寺三郎 THE GHOST OF THE DUSKはファミコン時代から続く歴史ある推理アドベンチャー、神宮寺三郎シリーズの30周年記念作品です。
神宮寺三郎シリーズはFCから始まったおそらく日本一歴史の長い推理アドベンチャーで、私立探偵である神宮寺三郎が数々の事件を解決していくというオーソドックスなスタイルの作品群です。男気溢れる神宮寺の活躍がメインではありますが、マルチリンガルで陰ながら神宮寺を支える優秀な助手御苑洋子や、神宮寺とは付き合いの長いベテラン刑事熊野泰三など、主要キャラにはそれぞれ魅力があります。
本シリーズ最大のの特徴として、ハードボイルドかつシリアスな世界観から大衆にはウケないものの特定のファンから根強い人気を誇る、といったものが挙げられます。
ネタバレを控えつつ過去作を振り返ると、物語の裏で大規模な政治集団や政治献金が絡んでいたり、jazz風のBGMが流れる中barでバーボンを飲みながら情報を集めたりと、兎にも角にもシックな雰囲気に定評のあるシリーズです。大人向けであることは間違いありませんね。
一方で、固定層のゲーム離れの影響もあり本来の路線から外れてしまっている作品も多かったりします。ちょいちょい迷走してるって感じですね。そのためシリーズとしての安定感には乏しく、作品ごとに世間の評価が大きく異なります。アタリはめっちゃ面白いが、ハズレは冒険しすぎて失敗してるといったところでしょうか。
今回はそんな老舗、神宮寺三郎シリーズの30周年を記念して開発された、探偵 神宮寺三郎 THE GHOST OF THE DUSKの感想を書いていきます。さて本作はアタリとなるかハズレとなるか。購入の参考になれば幸いです。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=2&v=EhC4rb8OoyA&feature=emb_logo
"渋さ"がウリのシリーズだけに、そこが評価のポイントとなる
公式サイトの動画を観るだけでも本作の雰囲気がわかるでしょう。
尚、本記事に使われる画像はすべてこの動画のスクリーンショットです笑
ネタバレにもならないし
評価
評価:★★★★☆ 作品として一貫性のある名作。
間違いなく「アタリ」作品。シリーズの特徴であるシックな雰囲気を存分に堪能できる。特に重要性の高いストーリーに関しても良くまとまっている上、ボリュームも少なくない。ウケる層がはっきりしている作品のため少し悩んだが、ハードボイルドな世界観を楽しめるゲームは稀であるためその希少性を考慮して★4とした。また、全体的な難易度はかなり低いため、ゲーム初心者にもオススメできる。
良い点
・単純にストーリーが良い:シリアスでよく組まれた物語
本作は推理アドベンチャーであり、基本的には文章を読んでストーリーを楽しむものですから、その部分が最も重要なのは間違いありません。ですので最初に言及します。
本作のストーリーはしっかりと「重く」「シックで」「よくできて」います。ネタバレはしませんが人は普通に死にますし、個々の登場人物の心境も決して軽いものではありません。個人的には話の筋もしっかり通っているとも感じました。映画になったら絶対観に行くと思います。それくらい満足しました。
また後述しますが、神宮寺シリーズの強みであるハードボイルドな雰囲気がしっかりと活かされている点も素晴らしいです。探偵ものなのでさすがに事件が起こるまでは盛り上がりに欠けますが、一方で事件が起きてからは急展開の連続で、プレイしていて飽きませんでした。むしろ続きが気になってどんどん没入していくような感じです。面白い小説とかと同じですね。
登場人物に関しても同様で、個々の背景をしっかりと掘り下げているため物語にのめり込むことができました。たとえ死んでしまってもこの点は守られており、しっかりとストーリーでの役割を果たしています。個人的な考えですが、よくできた話というのは無駄に登場人物を増やしません。本作における主要キャラは決して多くありませんが、その一人一人を大切に扱っていることがよくわかります。
(まあ探偵モノなので極端に少なくはないんですけどね。犯人わかっちゃいますし。)
・雰囲気が良い:正統派ハードボイルド
本作は作品全体を通してハードボイルドな雰囲気が活かされているといえます。ストーリーやjazz調のBGM、キャラクター等本当に全てが渋いです。しかもさすがは探偵モノの老舗、取ってつけたような急ごしらえのデザインではなく、全ての要素がよく混ざり合ってしっかりと一つの世界観を作り上げています。声優もベテランを起用しているだけにピッタリハマっているので作品の雰囲気を損ねていません。
余談ですが筆者は本作クリア後、余韻が残りまくっていたせいでBar通いをするようになりました笑
元々上記のような特徴を持ったシリーズではあるのですが、本作は中でも特にブレがないです。ここまで正統にハードボイルドな雰囲気を味わえるゲームは間違いなく希少ですから、ぜひとも自身で体験してほしいですね。ハマる人はとことんハマると思いますし、多分そういった人は本シリーズのファンになります。
悪い点
・ボリュームが多くない:短編集で補填はしてるけど…
本作はストーリー、雰囲気ともに非常に面白いのですが、その本編ボリュームは決して多くはないです。まあ少なくもないのですが、せっかく世界観にドハマりしたのでもう少し浸っていたかったです。また、メインシナリオにおいてはほとんど困る要素もなく難易度が低いため、一本道に感じやすいです。ストーリーのみが目的の人には良いですが、アドベンチャーに難易度を求める人には少なくともゲームとしては物足りなく感じることと思います。
ただ上述した通り本作のストーリーは非常によくできており、話は綺麗にまとまっています。推理モノで無理に長編を作ろうとすると、よほどの大作にでもしない限りは途中でダレるであろうと思いますので納得はしています。本編への満足度が高いからこそ抱いてしまった感想だと思いますね。
一応補足すると、過去に携帯アプリとして出した作品が4つも入っているため、ソフトとしてのボリュームは結構あります。
・一部難しいシーンがある:タッチパネル操作の弊害
※このゲームのみに当てはまる欠点ではありません
推理アドベンチャーおなじみの、タッチパネルによる現場検証すべてに当てはまる欠点だと思います。システムとしては現場の画像が画面に表示されるので、その中で重要そうな部分をタッチパネルで触ると証拠が手に入り、物語が進むといった形です。
このシステム、証拠品の当たり判定を大きくしすぎると適当に画面をタッチしているだけでクリアできてしまう一方、判定を小さくするとタッチするのが難しくなり証拠を見つけ辛くなるという欠点があります。
これはもう推理モノをやるからには逃れられない点ですね。困ったら細かく画面を連打しましょう笑
・御苑洋子のデザイン:過去作と比べてオバサンっぽい
シリーズファンからすると恒例行事なのですが、神宮寺三郎シリーズで助手を務める御苑洋子は作品ごとに容姿が大きく異なるといった特徴があります。欠点というよりはお約束といった感じで、開発側もわざとやっていると思いますし、シリーズファンたちは毎回御苑洋子のデザインを楽しみにしてたりします。気になる方はネットで調べてみてください。本当に別人レベルで違いますから。
本作の御苑洋子はちょっと年増な雰囲気を纏っており、個人的にはあまり好きではありませんでした。まだ若い(確か20代では?)はずですし、洋子君はおちゃめなところもあるキャラクターですから、もう少し若い外観のほうが良かったです。髪型がよくないですね。超個人的な感想です。
総評
では完結にまとめます。
探偵 神宮寺三郎 THE GHOST OF THE DUSKはシックな世界観と完成度の高いストーリーを楽しむことができる希少なゲームです。特徴がはっきりしている上に全体のクオリティもかなり高いため、ハードボイルドな世界観が好きという人には是非ともプレイして欲しい超オススメ作品です。またそのような作品をやったことがないという人でも、高品質であるが故に手を出すだけの価値はあると思います。
本作が肌に合わない場合、単純にこういう雰囲気の作品大半が合わないと判断できそうです。
難易度に関しては非常に低いです。そのためゲームないしアドベンチャー初心者でも手軽にメインシナリオを楽しむことができます。一方で、アドベンチャーにやりごたえを求める人、特にFC時代の難易度が好きだったような人は物足りなく感じると思います。
本編のボリュームはあまり多くはないですが、携帯アプリ版が4作品入っているため、ソフト全体としてのボリュームは結構あります。神宮寺シリーズが初めてであれば、こちらから手を出すのもありかもしれません。本作が初神宮寺でも、オムニバス形式をとっているためどのストーリーから遊んでも問題ないです。タッチパネルで詰まったときは頑張って隅から隅までタッチして強引に進めましょう。
完成度の高いハードボイルドな物語を堪能できる名作
これが探偵 神宮寺三郎 THE GHOST OF THE DUSKをプレイした上での感想です。
本作からあなたも神宮寺のファンになろう!
オススメできる人
・ハードボイルドでシリアスなストーリーを楽しみたい
・BarでJazzを聞きながらバーボンを飲む、うーんシック!
・神宮寺シリーズのファンだが、昔のような渋いシナリオが好き
・とりあえず上のYoutube動画を見て雰囲気が気に入った人
オススメできない人
・そもそもノベル系が嫌いで、渋い雰囲気の話は好きじゃない
・アドベンチャーにおいて、シナリオより難易度を重視する人
・子供
以上、参考になれば幸いです。
余談
本作のAmazonレビュー、相当評価高いですね。まあ知名度がないのでそもそもファンしか購入していない上、今回はアタリ作品だったのでこういう結果になるのでしょう。
筆者としましても、個人的には映画にでもなってほしいストーリーです。というか神宮寺シリーズはリアル路線の話なのだから、それくらいなってくれてもいいのになあ。
「探偵はbarにいる」とかが好きな人には間違いなくウケると思うんですけどね。まあ一生来ないでしょうな。
あと神宮寺がアイコス吸ってたら醒めるのでちゃんと紙巻を貫いてほしいですね。
Yooka-Laylee ~64時代を彷彿とさせる懐かしの箱庭アクション~
概要
Yooka-LayleeはPlaytonic Gamesという会社が発売した箱庭型アクションゲームです。
※箱庭型というのは、各面毎に広大なマップが用意されており、そこを探索してアイテムを集めていくようなゲームのことを指します。
本作はスーファミ、64世代のゲーマーなら知らない人はいないであろうゲーム会社、レア社のメンバーが再集結して作成されています。レア社というとスーパードンキーコング、バンジョーとカズーイの大冒険、更には007なども開発しており、その技術力と企画力の高さから当時の覇権を握っていたうちの一社と言っても過言ではありません。つまりめちゃくちゃ凄い会社だったわけです。
そんな元レア社のメンバーが、箱庭アクションという得意ジャンルを引っ提げてインディーズに参入…これはもう当時のゲーマーからしたら期待に胸が膨らまざるを得ないですし、若手のゲーム作者からしたらもうチート集団のようなものだと思います。
今回はそんな強者すぎるインディーズ集団が開発した、Yooka-Layleeの感想を書いていきます。購入の参考になれば幸いです。
評価
評価:★★★☆☆ 良作。だが明確な不満点あり。
美しくコミカルな世界とBGMが強い。箱庭型なので冒険する楽しさを手軽に味わうことができる安定した良作。インディーズに分類すること自体に問題を感じるレベルのハイクオリティ。
一方、操作及びカメラ感度の影響でミニゲーム等が無駄に難しくなってしまっており、ストレスが溜まる部分も多く、また日本語訳は劣悪のためストーリーには期待できない。
良い点
●箱庭だけど広大なステージ:冒険気分を気軽に味わえる
箱庭アクションの特徴として、マップが濃密になる点が挙げられます。世界の広大さを比較してはオープンワールドに劣りますが、たくさんのイベントを限りある範囲に詰め込まなければならない箱庭型は、ステージの濃密さにおいて勝る傾向にあるのです。
本作もその例に漏れず、各ステージの作り込みは大変すばらしいものとなっております。参考までに1面の画像を用意しました。
上の画像だけではよくわかりませんが、高いところから全体を見下ろすと、非常に広大なフィールドであることがよくわかります。広すぎて画像に全体を収めることができませんでした。
1ステージだけでもこれだけの広大さを有しており、かつフィールド上にはミニゲーム的なものが大量に存在します。必然的にマップの密度は濃くなり、冒険に飽きを感じさせにくい構造となっております。
また各ステージにはわかりやすいテーマがあります。1面であれば遺跡平原といったところでしょうか。これが他ステージになると…
こんな感じになります。 このように、ステージ毎に雰囲気がガラリと変わるため、完全にフレッシュな状態で楽しむことができます。
そして本作の強みとして、すべてのステージで一貫してこのハイクオリティが続くことが挙げられます。ステージをいくら進めても、なんか手抜きになってきたなーと感じることはありません。更に各ステージ間の移動は結構短いため、1面をクリアしたら割と簡単に次のステージへと進むことができます。
様々な世界を探検することができる本作では、始めてからクリアするまでずっと未知の世界を冒険する楽しさを味わい続けることができるでしょう。
さすがは元祖箱庭ゲーを作り上げた元レア社スタッフといったところでしょうか。
●追加アクションが多い:強くなっていく主人公達
本作の主人公YookaとLayleeですが、ゲームスタート時点ではほとんどアクションを持っていません。せいぜいちょっとした近接攻撃ができたり、近くのチョウチョを舌を伸ばして食べる程度しかできません。あとなぜか2段ジャンプは最初からできる。
そんな彼らではありますが、各ステージにいるヘビのTrowzerという商人から技を購入することで様々なアクションをこなせるように成長していきます。
例えばヒップドロップができるようになったり、口から氷塊や炎を吐けるようになったりと、アクションの幅はステージの進行に合わせて広がっていくわけですね。
この仕様のおかげで操作していてもアクションを単調に感じることはなく、また新しい能力をいかに使用してミニゲームや謎解きを行うかを短いスパンで試行錯誤することとなりますから、プレイしていて飽きにくいです。ステージを進む際には、次はどんな能力が手に入るのだろうとちょっとワクワクしてしまいます。
一方で、能力が増えるということはステージ側の要求するアクションもより高度なものとなっていくわけですから、後半のステージに進むほど謎解きは複雑になりますし、ミニゲームも難しくなります。プレイヤー側もしっかり腕を上げなければ進めない仕様となっていることが、より飽きを感じにくくなっています。
●BGMが素晴らしい:場面に合わせたBGMが冒険を彩る
かつてレア社の作品を遊んだことのある人であれば誰もが気になるであろうBGMですが、安心してください。当時のゲームを遊んでいるかのような素敵なサウンドの数々が本作にもまた、しっかりと備わっています。
本作の開発スタッフが歴戦の猛者であることは先述しましたが、中でもとりわけ有名なのは作曲家の優秀さでしょう。レア社の音楽の強みとして、場面に合わせた音楽を作るのがとにかく得意という点が挙げられます。
本作においてもその強みは健在です。分かりやすい例でいうと、平原のステージでは雄大なBGMが、そして氷のステージでは美しく神秘的なBGM…と、ステージ毎にしっかりとその雰囲気を更に強調するようなBGMが流れます。
また、水に入ると自然にこもったような編曲に切り替わり、ミニゲーム時には疾走感のある曲になったりと、音楽が場面を後押しするような作りとなっており、かつそれらは自然にゲームの中に溶け込んでいます。
全体的にポップな曲が多いですから、子供受けもいいと思います。というか、こういった「場面を強調できる音楽」というのはどちらかというと映画音楽に近いような作りですから、ぜひとも子供達にこそ体験してほしい部分でもあります。良い芸術には幼いうちに触れた方がよいものです。
もし本作が元レア社スタッフ作だと知らなかったとしても、この音楽だけでも気づけてしまいそうなほどの安心安定クオリティです。
悪い点
●日本語訳の品質が悪い:意味は伝わるが完全に直訳
本作最大の欠点です。日本語でプレイしたネイティブジャパニーズであれば誰もがこの欠点を挙げるでしょう。
本作は日本語プラットフォームに対応していることになっています。
しかしその実、そのクオリティは「ギリギリ非対応じゃね?」という位酷いです。
ん?google翻訳でも使った?と思うような直訳レベルで、意味が分からなくはないのですが、明らかに日本語としておかしい言い回しが多いです。まあ意味伝わってはいるんですけどね。
個人的に、これはちょっと業界として良くないですね。「日本語ギリ非対応」とかそういう表記にしてほしいです。まして多くの人とつながりも持っているであろうスタッフ達ですからね。不可能ではなかったのではと思ってしまいます。
この会社のゲームは文章の言い回しがとてもコミカルかつユニークで、しっかりと翻訳するのは難しいのかもしれません。しかしそれでも自社の強みが他言語圏の人たちにも伝わるよう、努力してほしかったというのが正直なところです。
●操作性が悪い:強い慣性とカメラ感度の低さ
本作には難易度高めなシーンも結構あるのですが、その大半はこの操作性の悪さが原因です。これが評価項にて記載した、本作でストレスが溜まる大きな原因となってしまっています。
まず、一部のアクションにおける慣性がやたら強く設定されており、綺麗に曲がるのがやけに難しかったりします。また影が小さいせいで空中にいるときの空間把握が難しく、ヒップドロップでスイッチを押すだけの操作をミスったこともありました。その一方で本作ではスイッチを踏んだり、高いところを飛んだりといったシーンが結構出てくるため、そのたびにストレスを感じました。
更にカメラの動きがやたらのっそりしています。画面酔いを防ぐ上では悪くないと思いますが、これと前述した慣性の問題が合わさり、一部のミニゲームが無駄に難しくなってしまっています。
ボスの難易度すらこの操作性の悪さが原因となってしまっています。個人的な意見ですが、「高難度」というのはこういった操作性の悪さに起因するものであってはいけないと思っています。主人公はスムーズに動かせるけど難しい。だから試行錯誤にやりがいと快感を感じるものです。本作の難易度はそれとは違い、純粋にストレスに感じる面が強いです。
●マップ移動の面倒さ:ワープ要素が少ない
良い点で述べた通り、本作の特徴は各ステージが広大かつ濃密であることです。そのためマップの隅から隅まで探索する楽しみがあり、冒険の興奮を味わうことができます。
しかし本作にはその広大なフィールドをストレスフリーに往来するためのワープ要素がほとんどありません。つまり、一度行くのに手間のかかった場所を再度訪れるためには、もう一度手間をかける必要があるということです。
本作では広大なマップに散りばめられたミニゲームを探さなければストーリーをクリアすることはできません。しかし当然すべてが露店のように分かりやすく存在するわけではなく、意外な場所にイベントが隠されていたりもするわけですから、マップを縦横無尽に駆け回る必要があります。隠しアイテムだってありますからね。
その上で、フィールド内移動をスムーズにするワープの存在はもはや必須レベルといえるでしょう。また、広いフィールドの位置関係把握という意味でもこれらは重要な役割を持つはずです。
本作はそれらの要素が少ない事によって、マップの位置関係把握と攻略終盤の隠しイベント探しが億劫に感じられます。せっかくの長所が攻略終盤では欠点になってしまう、かなり残念なポイントです。
総評
では完結にまとめます。
Yooka-Layleeはコミカルな世界観とBGMがうまくマッチしており、各ステージのボリュームも充分ある、安定したクオリティを有する箱庭アクションです。値段の安さも相まって購入しやすいと思いますし、やり込み要素も相変わらず多いですから、特にアイテム収集が好きな人にとってはたまらない作品でしょう。また難易度も理不尽に高くない一方で簡単すぎるということもなく、歯応えもしっかりあります。
一方で、日本語訳がひどいため世界観に心から浸るのは困難でしょう。また、操作性が若干悪く、フィールド内移動が面倒なため、全くストレスを感じずに遊ぶことは難しいのではないかと思います。昔のクオリティを求めているなら少し残念に感じるかもしれません。
総じてハイクオリティな懐かしの箱庭アクション
これがYooka-Layleeを遊んだ上での感想です。
オススメできる人
・懐かしのレア社作品の雰囲気をもう一度味わいたい
・探索が好きだが、オープンワールドをやるのは面倒
・アクションの仕様にストレスを感じにくい子供達
・やり込みが好き(100%にするのはかなり大変です)
・ライトな雰囲気で、しっかりしたアクションゲームを遊びたい
オススメできない人
・日本語がしっかりしていないのはどうしても許せない
・操作性の微妙さは許容できない
・小さなストレスの連続に耐えられない
・アクションでもストーリー重視の人
以上、購入の参考になれば幸いです。
OCTOPATH TRAVELER感想 ~名作になれたのになれなかったRPG~
概要
まず初めに言いたいのですが、私はスクエニに対して少々憤りに近い感情を抱きました。理由は後述。
本作はドット調でターン制のスクエニ産RPG。DSで発売されたブレイブリーデフォルト系列という扱いになるのでしょうか。まあ古き良きRPGを目指した感じの作品となっております。
スクエニはFFの不調に危機感を覚えているのか、結構前から新しいJRPGブランドの開発に力を入れていますね。
OCTOPATH TRAVELERもそんなブランディング作品の一つであるといえます。公式サイトなどを見て頂ければわかるのですが、雄大なBGMが流れる中、美しいフィールドをドット絵のキャラクターが駆け回る。そして非常に緊張感のある素晴らしいBGMのもと、ブレイクというシステムによって緩急のある戦闘を楽しむことができます。
初記事である今回はそんなOCTOPATH TRAVELERの感想を書いていきます。購入の参考にして下さい。
評価
評価:★★★☆☆ 良作。しかし明確な不満点あり。
キャラ良し、戦闘良し、音楽も世界観も良し。約束された名作になれる要素を全て、ストーリーの品質の低さによって台無しにされた悲しすぎる作品。ストーリーの不満がなければ余裕で★4。
まず概要にも書きましたが、このOCTOPATH TRAVELERという作品、RPGにおけるほとんどすべてのクオリティが非常に高いです。
良い点
●音楽が本当に素晴らしい:神曲のオンパレード
まず個人的に最も評価したいのはBGMです。RPGでは基本的に戦闘がターン制で進行するわけですから、プレイヤーのテンションを保つ上で戦闘BGMは重要な役割を担っています。その点において、躍動感と緊張感を併せ持った本作の戦闘BGMは至高ともいえるでしょう。ストーリーの進行中に流れる各キャラのテーマ曲もまた、素晴らしいの一言です。各々の個性に性格、そして背景(出身地も含めて)を彷彿とさせる雰囲気があり、声優の上手さも相まって心の底から本作の世界観に浸ることができます。
更に付け加えると、音楽に詳しいわけではないため表現が難しいのですが、本作のBGMはおそらく人によって好き嫌いが少なく、大体の人から高評価を得られると思います。
ようするに電波系やjazz調だとか、そういう尖った特徴がないのです。昔ながらの作品を目指しているからか、普通に神曲。その表現が一番しっくりきます。メロディーラインが分かりやすい点も良いですね。
これについては是非ともyoutubeとかで聞いてみて欲しいなと思います。
筆者自身、youtubeで偶然「プリムロゼのテーマ」の演奏してみたを視聴し、ドハマりしたことがきっかけで本作を購入しました。「トレサのテーマ」なんかも好きですね。ずっと聞いてても飽きません。
ここまで名曲揃いのゲームも珍しいと思います。
●世界観が王道で良い:心躍る美しい世界とキャラクター
次に評価したいのが世界観、特に主人公8人の背景と性格です。
祖国を裏切った仲間を探しつつも、自身の目的を見失ってしまったおっさんオルベリク
一人前の商人になる夢を叶えるため、旅にでた少女トレサ
純粋に自身の知的好奇心を満たすために旅をするイケメン学者サイラス
そして父の仇討ちを心に誓った踊り子プリムロゼ
上記は筆者が特に好きなキャラクターですが、このようなメンバーが8人で旅をする話です。これは期待に胸が膨らまざるを得ないでしょう。
本作は8人それぞれに独立したストーリーが用意されており、プレイヤーはそれを選択して順番に進めていく形式をとっています。
分かりやすく言うと、オルベリク編1章、プリムロゼ編1章みたいな感じで各キャラの1章をクリアして、また全キャラの2章を進めていく流れです。
一応他キャラの章を無視して一人だけを進めることも出来なくはないのですが、レベルの関係で難易度がかなり上がります。少なくとも通常のプレイヤーであれば順番に進めていくこととなるでしょう。
この進め方に関しては好き嫌いが分かれると思いますが、その一方で各々のストーリーはクオリティが安定しています。安心してプレイできると言ったほうがいいかもしれません。
このゲームの主人公たちは概ね精神的に未成熟であったり、あるいは何らかの悩みを抱えています。例えばトレサは商人として未熟ですし、守るべき王国を失ったオルベリクは自らが剣を振る理由を見失っています。
しかし章を進めていくことでそれぞれの問題が解決され、主人公たちの成長を見ることができます。各キャラクターのストーリーは安心感のある王道展開が多く、遊んでいてとても気分がよくなります。
特にトレサの話は音楽も併せていい感じの雰囲気でしたね。あと唯一最初っから全く性格にブレのないサイラスも好きでした。先生かっこよすぎ
8人もキャラクターがいて別々の地域から話が始まるのですから、各地域の文化もしっかりと味わうことができます。砂漠の国、王国、雪国など、たくさんの国や人々がいるのみではなく、大教会があり宗教的であったり、コロッセオが人気だったり、悪い奴に支配されてたりもします。
全キャラの話をクリアしようとすると必然的に全ての地域に赴く必要がありますから、旅をしているという感覚をしっかりと味わうことができます。旅人としての気分を味わいたいという人は移動しているだけでも楽しいかもしれません。
●緩急のある戦闘システム:ブレイク、ブーストを使いこなして強敵を倒す快感
本作の戦闘システムはRPGとしては完成度が高いです。重要なのはブレイクとブースト、この二つをいかに上手く活用するか、そこにすべてがかかっています。
まずはブレイクについて、本作の敵は雑魚でも結構な耐久力があり、適当に攻撃していても大したダメージを与えることができません。しかし弱点属性、あるいは弱点武器で攻撃することでブレイクポイントがたまっていき、一定数それをこなすことで少しの間行動不能かつ防御力が極端に下がります。そのため、いつ敵をブレイクさせ、いかにしてその間に大技を叩き込むかが攻略のカギとなってきます。
次にブースト、これは1ターンに一度与えられる先取り行動の権利のようなもんです。5つまでポイントをためることができ、最大で3つ使用することでそのターンの行動を強化することができます。具体的には、スキルの威力を上げたり、近接攻撃なら1ターンに使用した分だけ連続攻撃できる、といった形です。
この二つのシステムのおかげで戦闘には常に緊張感と戦略性があり、プレイしていて飽きません。例えばボスが力を溜めて大技を放とうとしているタイミングでブレイクしたり、あるいは味方が大技を放てるタイミングに合わせてブレイクさせたりといった形です。もちろん回復にブーストをかけることも出来ますから、ピンチを切り抜ける上でもとても重要なシステムです。
本作がただの「古いだけのRPG」であれば、単純なターン制の繰り返しとなっていたことでしょう。しかし本作はこの二つのシステムにより、間延びしない緩急のある戦闘を楽しむことができます。また、突き詰めれば大切なのはこの2点のみなので、変に複雑になりすぎてただ分かりにくいだけとなっていない点もgoodです。RPG初心者にも自信をもってオススメすることができます。
敵をブレイクさせるためには弱点属性を見抜く必要がありますから、それをどれだけ効率よく探るかも重要です。戦略性が重要なこの戦闘システムは、RPG特有の倦怠感を回避する良いシステムであると言えるでしょう。
またRPGのお楽しみ、jobシステムもしっかりあります。本作ではキャラクターに元々備わっており変更できない「メインジョブ」と、後から変更できる「サブジョブ」があります。サブジョブといっても各キャラ自体のユニークスキル以外はすべて使えますので、実質2つの役職をこなせるということです。このシンプルなシステムのおかげで結構なパターンのパーティーを組むことができます。色々と思考錯誤する面白さはあるかもしれませんね。(※かもしれないと書いている理由は後述)
さて、ここまで本作の良い点を述べてきましたが、一方で本作には悪い点もしっかりはっきりあります。以降は愚痴っぽくもなりますので、本作が大好きという人は読まないほうが良いかもしれません。
悪い点
●ストーリーの完成度が低すぎる:各キャラにストーリー上での絡みが全くない!
これが本作最大の欠点であり、名作になれるだけの要素を持った本作がそうなれなかった致命的すぎる欠陥です。私がスクエニに対して憤りを感じている部分でもあります。
RPGにおけるストーリーというのは、他のジャンルと比較しても間違いなく重要度が高いです。これは文化的な側面が強いとは思いますが、どれだけ素晴らしい要素をたくさん持っていても、ストーリーがダメならそのRPGは終わりです。本作はまさにそんな感じのゲームとなってしまいました*。
*RPGでストーリーが重要視される理由として、おそらく戦闘のシステム自体がアクション等と比較して単純化されているためだと筆者は考えている。ターン制の限界だろうか。
まず本作はOCTOPATH TRAVELERという名の通り、8人の主人公がともに旅をする話です。そして前述しましたが、8人それぞれの話は王道展開で安心感のあるクオリティとなっています。なんか適当なパッとで出のキャラがラスボスだったりすることもありますが、まあメインシナリオを主人公の心情変化と捉えるならば王道であることは間違いないと思います。
しかし!各々の話において他の主人公は全く登場しません。全く何の絡みもないのです。要するにただ行動を共にしているだけの赤の他人ってことです。あるキャラクターの話で主人公が閉じ込められるシーンがありますが、その時もなぜか1人で閉じ込められているかのように話が進みます。一緒にいるはずなのに!仲間意識が薄いとかそんなレベルではありません。驚くべきことに、8人で行動するようになった理由とかも一切ありません。
これだけの濃密な世界観と個性的なキャラクターを用意しておきながら、一体どうしてそれを全て無駄にするようなことができるのだろうと本気で思います。優秀なストーリーライターにしっかり仕事を依頼すれば、もしかしたら物凄く壮大なストーリーができたかもしれないのに!
そのため、せっかく用意された各キャラの個性もサブキャラクター達も、マクロな話の中では全く活かされていません。これはもうこの世界観を用意した人たちに対する冒涜ってレベルだと思いますし、残念ながらこのキャラクター達の絡みを見る機会は永遠に訪れないでしょう。作品が終わってしまったのですから。
ネタバレですが一応言及しておくと、本作には一応大きなストーリー(各キャラのストーリーが少しずつ関わっているもの)が存在します。しかしそれは隠し要素となってしまっており、普通に遊んでいるプレイヤーは気づかないですし、そもそもその大きな話の中ですら主人公たちの絡みがあるわけではないため、8人で旅をしている意味が一切ないです。
これは私の意見ですが、こういったマクロなストーリーを隠し要素として入れるくらいなら、何故それをメインストーリーにしなかったと声を大にして言いたい!そしてその中にうまく各主人公の話を組み込むことができれば、本作は間違いなく名作でした。スクエニは本当にもったいないことをした!話完結できないFFに金かけてる場合だろうか。
実際各主人公のラスボスも、いかにも大物って感じの敵からぱっと出のよくわからん奴とか、何ならある程度強いよくわからん動物だったりもします。だったらもう章分けたりしないで1本の話にすれば良かったのに!
この致命的すぎる詰めの甘さに対して、憤りを感じてしまいました。なんかもう明らかにブランド志向になり過ぎたが為に新規プロジェクトにミスったような感じで、携わった人たちがかわいそうです。
●戦闘バランスはちょっと悪い:魔法つよすぎ問題
これはあまり大きな欠点ではありませんが、本作の戦闘バランスはあまりよくないです。具体的には「魔法>>>物理」ってくらいのレベルで圧倒的に魔法のほうが強いです。そのため魔法攻撃力の高いサイラスは常にパーティーに欲しく、逆に物理攻撃向きのオルベリクなんかは正直いなくてもいいレベルです。
とは言っても物理攻撃が極端に弱いわけでは決してなく、魔法が強すぎるだけです。上級者の低レベルクリアなんかでは物理攻撃を上手く使用したりもしています。ただ、本作を普通に遊ぶ上では間違いなく、物理攻撃はせいぜい敵をブレイクさせるための手段に過ぎないでしょう。
また、その魔法に特化したサイラス先生のユニークスキル(役職と異なり他のキャラにはないスキル)はなんと「戦闘開始時に敵の弱点を一つ見抜く」というものです。これはブレイクが重要な本作では間違いなく最強クラスの能力でしょう。なにせ本来であれば弱点属性を探すために何ターンか使って手あたり次第攻撃しなければならないところ、サイラスをパーティーに入れるだけで最初のターンから敵のブレイクポイントをほぼ確実に溜めることができるのですから。そのため、他のキャラと比較してサイラスだけ需要がありまくります。そして必然的に戦闘回数が多くなりレベルが上がるため、サイラスの魔法の威力が更に上昇し、更に需要が高まります。
もう正直サイラス抜きでプレイするのは舐めプってレベルです。かっこいい戦士の活躍を見たい方、残念ながら本作にはそれを期待しないほうが良いでしょう。なにせ本作のスターは間違いなくサイラス先生なのですからね。
(※オルベリクのストーリー上における活躍は非常にかっこいいです)
また地味に「調合」というユニークスキルを持つアーフェンもずば抜けて強いです。アーフェンで弱点を突いてサイラスで大ダメージを与える。正直この戦法が安定すぎて他の戦法を試す気が起きないレベルです。
●酒場でしかパーティー変更ができない:マップの探索を面倒にする仕様
本作の主人公達はそれぞれがマップ上でしか使えないユニークスキルを持っています。例えば戦士のオルベリクなら町中の人に決闘を申し込めますし、神官のオフィーリアなら人を導いて仲間にしたりできます。
しかしこのシステムはパーティーにいる4人の分しか使えない上、キャラを交代させるためには一度町に戻って酒場に行く必要があります。
これの何が面倒かというと、一部のサブイベントを進めるためにあるキャラの能力が必要だったりすること。そしてそれらは酒場の近くで起きるわけではないということです。
一番わかりやすいのは紫色の宝箱ですね。ダンジョンなどで稀においてあるこれにはカギがかかっているため、盗賊のテリオンがパーティーにいないと開けることができません。しかしパーティーにテリオンがいなければ、わざわざ
町に戻る→テリオンを入れる→もっかいダンジョンへ
という動作をしなければいけません。明らかに面倒なだけですが、残念ながら本作ではこういったシチュエーションが多発します。一体どうして8人全員で行動を共にしないのか、謎すぎる仕様です。
●装備変更が面倒:パーティーメンバーしか装備を変えられない
上と被りますが、これもストレスに感じました。本作では装備の交換はパーティメンバーのものしか行えません。そのため、強い装備を付けた人を酒場に預けた状態でその装備のみが欲しくなった場合、
装備を付けてる人をパーティーに入れる→装備を変える→パーティーを戻す
という操作をいちいち行う必要があります。せめて「~が装備していますが、外しますか?」という表記程度にしておけば良かったのに。そのため、ちょっと装備をいじるだけでも結構面倒に感じます。だからなぜ君たちは8人で行動していないのだ…。
総評
長々と書きましたが簡潔にまとめます。
まずOCTOPATH TRAVELERは素晴らしい世界観、キャラクター、そしてBGMが揃っており、戦闘システムもとても面白く、更に個々のストーリーは王道と、安定したクオリティを有する作品です。買って大損した!なんてことはないと思いますし、やり込み要素も多いですからRPG好きにもお勧めできるでしょう。
このように多くの強力な要素を持った本作ではありますが、その一方で壮大なストーリー等を求めてはいけません。仲間同士で喧嘩したりとか、助け合ったりとか、そういうのを期待している場合には間違いなく裏切られてしまいます。本作はあくまで短編集です。公式サイトなどにはそんなこと書いてありませんがね。
名作になれたのに良作で止まってしまったRPG
これがOCTOPATH TRAVELERを遊んだうえでの率直な感想です。
本作の評価を調べると、スクエニだからかドット絵だからか、その「雰囲気」だけに流されてこうした悪い点を無視したレビューが散見されます。
彼らもアフェリエイト目的なのですから基本的にはむやみやたらと褒めちぎるような内容を投稿したいのでしょうが、ブランド力などに影響されない正当な評価を記載するべきだと思います。
お勧めできる人
・一人で世界を旅する気分を味わいたい
・王道のストーリーを楽しみたい
・RPG初心者で、安心して買える作品を遊びたい
・長編よりも短編のほうが好き
・戦闘の楽しいRPGをプレイしたい
・やり込みが好き(やり込み要素はかなり多いです)
・本作の名曲の数々に心打たれた
お勧めできない人
・過去のFFシリーズのような壮大な話を期待している人
・仲間同士の掛け合いを期待している人
・高難度なRPGを期待している人
余談
完全に余談なので最後に書きます。ネタバレっぽい部分もあります。
プリムロゼって良いですよね。暗い過去と強い意志を持っていて、間違いなく人気のキャラクターだと思います。
ただ彼女のストーリーだけはちょっと納得できない終幕でした。正確にはラストのイラストに対してですが。
正直彼女だけは他のキャラほど救済されてないと思います。まあ、目的が目的ですし、本人にも迷いが全くないわけではなかったですからね。あくまで悩み抜いた末の行動だったのでしょう。父が復讐を望んでいるわけではないという考えもちゃんと持ってましたから。
であるならば、彼女の最後の表情があんなにすっきりしているのは、どうもおかしいだろと思ってしまうのです。もう少し寂寥感のある中で、しかしこれまでのように自らを鼓舞し、強く生きていこうと決意するような表情をしているべきだと思いましたけどね。あの表情は明らかに爽やか過ぎです。彼女の内面から払拭しきれていない暗い感情が全く表現されていません。一番好きなキャラだけに、ちょっと納得できないんだよなあ…。